鴨川日記

本の紹介を中心に活動しています。

朝日新聞の誤訳について

昨日(2018/10/16)付の朝日新聞の記事を見ていたらたいそう残念な誤訳を見つけてしまったので、それを記事に書こうと思う。

その記事とは米大統領、失踪記者巡り国防長官をサウジへ ならず者関与示唆」とかいうもの。

リンク先のの記事を読んでみると、先日のサウジアラビアの記者失踪事件についてトランプ大統領が「ならず者の殺害者が関与している可能性もある」と言ったと書いてある。またそれを受けてとある民主党議員が「『ならず者の殺害者』という馬鹿げた見解にサウジは同調するだろう」と批判ツイートをしたそうな。ふむふむ「ならず者の殺害者」の仕業なわけね! しかし「ならず者の殺害者」が云々と言われたところで、何が何だかよくわからないぞ? お前は一体なにが言いたいんだ?

そもそも常識的に考えて、ふつう新聞の見出しに「ならず者の関与」なんて変なフレーズが踊るだろうか? いや、そもそも人殺しとはすべからく「ならず者」のなせるワザでは無いのか? これはもう同新聞社の天声人語とおんなじで何が何やらイミフメイ!

さて謎解きといこう。ここで同じトランプのセリフを報道したロイターの記事を参照してみる。

www.reuters.com

どうやら朝日の「ならず者の殺害者」とは、トランプ大統領の "I sounded to me like maybe there could have been rogue killers. Who knows?" という一昨日のコメントを訳したもののようだ。確かに "rogue" は「ならず者」だ。したがって、自分では英語ができると自惚れている(だろう)朝日新聞の海外特派員か誰かが、 "rogue killers" を「ならず者の殺害者」と、なにも考えずにそのまま訳したことは容易に想像がつく。だが、考えても見てほしい。そもそも "rogue" は名詞である "killers" の前に置いてあるのだから、常識的に言って形容詞として解釈すべきだ*1! 中学生レベルの話じゃないか! 大体、形容詞の "rogue" の意味なんてものは、インターネットの無料辞書にさえ乗っているんだぞ。やれやれ。辞書くらいきちんと引いてほしいものだが、勉強不足でアンポンタンの朝日記者の代わりに辞書を引いておいてあげよう。

eow.alc.co.jp

リンク先を見てくれたら一目瞭然だよね。トランプ大統領が "rogue" という単語で言いたかったのは、形容詞の「自分勝手に行動する」という意味なわけ。つまり「サウジ政府の意向から離れて勝手に行動した奴らが失踪した記者を殺したのかもしれない」ということ。こう読まないとなぜこのトランプの「馬鹿げた見解にサウジが同調する」のかがわからない。ちなみにその理由とは、このトランプの見解は、つい先日トランプ本人から「お前ら関わってたら潰す」(意訳)的な脅迫をされていたサウジアラビアにとって、願ってもないものだからである。ああ、哀れなるかな朝日新聞。ここら辺の事情をよく理解しないまま英語を翻訳していたことが目に見えるようであるよ。

この日本を代表する全国紙(自称クオリティーペーパー)の残念な誤訳は、同紙の記者が英語がわかっていなかっただけではなく、政治的文脈にさえも疎いままに記事を書いていたことの証左に他ならない。普段から「トランプは馬鹿」(意訳)的なことを繰り返し書いてきたこの朝日新聞が、その馬鹿なトランプ大統領の言葉すらもろくに理解できなかったというところにこの新聞社の悲哀がある。このブログ『鴨川日記』もネットメディアであるから、既存の新聞がネットより質が低いという流行りの言説も、あながち間違いなどではないのである*2

 

(tonguetied_muse

*1:仮にに名詞として取るとしても「ならず者をターゲットにして殺しをする殺し屋」くらいの意味にしかならないし、これだとトランプが失踪した記者のことをならず者だと罵っていることになる。

*2:この最後の一文を見て筆者がネトウヨだと思った諸君には浅はかであると言っておこう。